旧司法試験 平成4年度 憲法 第1問 合憲解答案
合憲とする回答がネットに存在しなかったし、違憲とするのが筋が良さそうだが、無理やり合憲として答案構成を作成したのでインターネットに放っておく
A市は、市営汚水処理場建設について地元住民の理解を得るために、建設予定地区にあって、四季の祭りを通じて鎮守様として親しまれ、地元住民多数が氏子となっている神社(宗教法人)境内の社殿に通じる未舗装の参道を、2倍に拡幅して舗装し、工事費用として100万円を支出した。なお、この神社の社殿に隣接する社務所は、平素から地区住民の集会場としても使用されていた。A市の右の措置について、憲法上の問題点を挙げて論ぜよ。
平成4年度旧司法試験憲法第1問
以下、アンダーラインは問題文の事実であり、太線は事実に対する評価である
2025-05-08
問題提起
市が、市営汚水処理場建設について地元住民の理解を得るために神社の山道の工事費用として100万円を支出した行為は、89条前段に反し、違憲ではないか?
89条前段の趣旨は、政教分離を財政面から裏付けることである。よって、政教分離に反しないならば、89条前段に違反しない。では、政教分離に反するのか?
正当か?
政教分離原則(20条1項後段、3項)の趣旨は、宗教と国家の分離を制度として保障️することによって、間接的に信教の自由(20条1項前段、2項)の保障を確保しようとすることにある。このことから、憲法は、宗教と国家の完全な分離を理想としている。しかし、完全な分離は不可能かつ様々な不都合がある。
そこで、
規範の宣言
目的が宗教的意義を持ち
かつ
効果が宗教に対する援助・助長・促進または圧迫干渉等になる
上記を充足する場合、政教分離原則に違反と解する
あてはめ
本件で見るに、市が未舗装の参道を2倍に拡幅して舗装し、100万円を拠出した行為が政教分離原則に照らして真に世俗的であり、宗教的意義を実質的に含まないと言えるかを検討する。この際、単に市の表明のみによるのではなく、一般人の評価、社会通念等に照らして客観的に考慮し検討する
目的が宗教的意義を持っているか?
たしかに、参道は宗教施設たる境内の社殿に通じる道なので、宗教施設への便宜供与となり宗教的意義を持つとも思える
しかし
市が本件支出を行った目的は市営汚水処理場建設について地元住民の理解を得るためという純粋に世俗的なものであり、この目的達成のために行われた本件整備は、以下の理由から世俗的意義を有する
第1に平素から地区住民の集会場としても使用されていた隣接する社務所へのアクセス路である未舗装の参道を整備することは、集会所利用者の安全確保や利便性向上に直接寄与し、集会所機能を円滑化する世俗的意義を有する
第2に現に住民に親しまれ利用されていた社務所を住民説明会や意見交換の場として活用し、市と市民のコミュニケーションの場を確保し、住民参加を促進することは、地元住民の理解を得るためという世俗的目的と整合する
結論:宗教的意義を持たない
以上より、本件支出の主たる目的は、住民理解の促進という世俗的目的と、そのための環境整備(集会所へのアクセス改善)にあり、参道が宗教施設の一部であることから生じる宗教的側面への配慮は副次的と言える
効果が宗教に対する援助・助長・促進または他の宗教に対する圧迫干渉等になるか?
たしかに、参道の2倍の拡幅・舗装によって地元住民の神社利用の便宜はまし、神社と地元住民との結びつきは強くなるとも思える
しかし、
整️備による利益は、社務所の集会所としての利便性向上という間接的なものに留まる
「四季の祭りを通じて鎮守様として親しまれ」「地元住民多数が氏子となっている」という事実は、当該神社と地域住民との間に既に強い結びつきがあることを示しており、地域住民にとっては、当該参道は信仰の道であると同時に、集会所へ向かう生活道路としての認識も強く、参道整備が新たに宗教的関心を喚起する効果は限定的である。
説明会や意見交換の場として社務所が利用される際、未舗装道路のアクセスの悪さが住民参加の障壁となっていた可能性もあり、より一層の集会所の活用が期待でき、市の説明責任の遂行といった世俗的な効果を期待できる
未舗装の参道を2倍に拡幅し舗装するという工事内容や、地方公共団体が行うインフラ整備の一般的な規模からすれば、100万円という金額は、比較的少額である
他の宗教に対する圧迫・干渉にも当たらないことは明らかである
よって、目的・効果ともに非充足であり、政教分離原則に違反せず、89条前段にも違反しないため合憲である
以上
合憲にするのは書きづらい(書いてみると、防衛が難しい)基素.icon
合憲にするためには社務所の公共性を認定する筋になると思う
「市営汚水処理場建設について地元住民の理解を得る」も使おうとすると、こういう筋になる
1. 社務所は活用されてるから、社務所が便利になると住民との相談がしやすくなる
2. 参道整備が主として社務所の公共的利用の便宜のため
ポイントは、「市の主観的評価」ではなく「一般人」から見ても宗教的意義を持たないと主張すること
津地鎮祭事件で「社会通念に従って、客観的に判断」しているため
しかし、LRA的に別に地元住民の理解を得るなら市のスペースを使えばいいって反論されてしまう
1への反論:「市営汚水処理場建設について地元住民の理解を得る」という市の目的を達成するためであれば、必ずしも宗教施設への利益供与を伴う手段を選択する必要はない
2への反論:参道は本質的に「社殿に通じる」宗教的性格を強く持つものであり、その整備がもっぱら社務所利用のためであったと主張するのは飛躍がある
それよりも「市営汚水処理場建設について地元住民の理解を得る」を「それってあなたの感想ですよね?」で一蹴し、仮想的な一般人に「100万円って高くね?」と言わせた方が楽
ただ、この工事内容で100万円が高いという回答はそれはそれで私は「そんなことなくない?」と思うので合憲側も書いてみた